多くの人に知ってほしい日本の「医療的ケア児」の実情〜「お母さん大丈夫。寝ていいんだよ」と言ってあげられる日本へ〜

日本は、「世界一、赤ちゃんを救える国」といわれています。医療の発達で、多くの命を救えるようになったからです。その一方で、その子たちの「これから」には多くの問題があります。今回は「医療的ケア児」について、お話をうかがってきました。


はしもと小児科 院長 橋本 政樹 先生

国立香川医科大学(現国立香川大学医学部)卒業。都立八王子小児病院(現都立小児総合医療センター)新生児科、愛媛県立中央病院小児科医長を経て、医療法人社団まなと会 はしもと小児科開設。

―「医療的ケア児」とは、どのような子どもたちのことをいうのですか。

 日常的に医療ケアを必要とする子どもたちのことを、私たちは「医療的ケア児」と呼んでいます。たとえば、呼吸のために気管切開をして呼吸器を装着していたり、食事のためのチューブを胃に通していたりといった、体に何らかのデバイスが付いた状態で生活しなければならない子どもたちのことです。
 現在、その数は急速に増えていて、全国でおよそ2万人にのぼるといわれています。

―どうしてそんなに増えているのでしょう。

 新生児医療の発達により、1000g未満の超低出生体重児や先天的な疾病など、以前なら亡くなるのを待つだけだった新生児の命を救えるようになりました。
 しかし、その子たちの多くは、呼吸・食事・排泄といった生きるために必要な器官に疾患があり、退院した後もずっと医療的援助を受けなくてはなりません。新生児集中治療室(NICU)で救命された後、気管切開や経管栄養などの医療的ケアを受けた状態で退院し、ご家族のもと、引き続き人工呼吸器や胃ろうなどを使用し、自宅で生活していくことになります。訪問看護をはじめ、さまざまなサポートが必要なのですが、医療的ケア児の増加に追いついていないのが現状です。

―医療的ケアを、医療従事者でない家族が行ってもいいのですか。

 いまは人工呼吸器などの医療機器も家庭内で扱えるようになりました。家族と医療従事者のほかに、研修を受けた保育者なども行うことができます。
 デバイスが付いている以外は、まるで健常者と変わらず走り回れる子もいますし、寝たきりに近い子もいますので、ひとくくりにはできませんが、いずれにしても受け入れやサポートの社会的支援の充実が求められます。いま日本は、医療的ケア児の受け入れに対応した保育施設や福祉サービスが著しく不足しています。これまで病院で行っていたケアをご家族が担うことになり、お子さんの症状によっては、当然負担も大きくなります。元気なのに受け入れる施設がない子のお母さんもいれば、つきっきりの介護で睡眠時間が3時間というお母さんもいらっしゃいます。

―医療的ケア児の訪問看護を積極的に行っているところは少ないのですね。

 在宅診療自体は内科でも行われていますが、圧倒的に高齢者へ向けたものです。高齢者は介護保険が適用されるため、介護施設や訪問介護のサービスが充実してきましたが、小児の場合は適用されないため、医療的ケア児の受け入れ先はほとんどありません。
 また、成長するにつれ、通える保育園や幼稚園、小学校が少なく、一時預かりさえ難しいのが現状です。
 総合的に切れ目なくサポートできる体制になるには、いくつもの法令の狭間にあり、なかなか道は険しいのですが、もう「知らない」では許されない状況だと思っています。

―最後に、医療的ケア児のお母さんにメッセージをお願いします。

 一番は、「がんばらなくていいよ」ということです。「寝ていいんだよ、寝られるようになるシステムをちゃんと作るから」と。平成28年に法が改正され、医療的ケア児が「身体」「知的」「精神」「発達」に続き、第5の障害として法律に明記されました。以降、各自治体が医療的ケア児を認識し始め、対策を立て出しました。少しずつですが、状況は良くなってきています。ひとりで抱え込まず、同じような境遇のお母さんのピアサポートなどもありますから、必要であればそこに行くのもいいでしょう。また、「特別だ、大変だ」とお母さん本人も周りの私たちも思わないことです。みんな同じ。お母さんのわが子の10年後を心配する思いは、世界共通です。
 そして何より、わが子の生命力を信じてあげてください。一生外れないといわれていたデバイスが数年で外れたお子さんは少なくありません。そしてそれは、病院で過ごすよりお母さんのそばで過ごしたお子さんの方が圧倒的に多いのです。

一人ひとりに向き合うことが日本の未来を見据えたケアに めじろ台駅から徒歩15分、閑静な住宅街に2棟並んだ広いクリニックは、どちらの棟にも多くの患者さんがいらっしゃいます。子どもたちの元気な泣き声が響き、待合室に入っただけで、多くのお母さん方に信頼された安心なクリニックであることが分かります。4人以上の先生が常駐しており、通常診療のほかに、訪問診療や受け入れ施設と協力し、医療的ケアの必要な子どもや重症心身症をもった子どもたちの遊びと学びの場を提供しています。八王子市の医療的ケア児は200名ほどいて、壁に貼られた大きな地図には赤いマーカーがたくさん。「ちょっとしたことで、お母さんとその子の人生は変わります」とやさしくおっしゃるのは院長の橋本先生。未来を見据え、大切な活動を日々重ねているクリニックのようです。 はしもと小児科 [診療科目]小児科
[診療時間]月・火・水・金 9:00~12:00、15:00~18:00
      木・土 9:00~12:00
[休 診 日]日曜、祝日

住所   東京都八王子市椚田町557-3
電話番号 042-668-8555 (第2棟:042-629-9950)
最寄駅  京王高尾線 めじろ台駅 京王バス 椚田北バス停
URL   http://www.hashimoto-shonika.com/