健康&美しさの鍵を握る魅惑の物質、「ALA(アラ)」を知っていますか?

体の若々しさや美しさ、心の活力維持にも役立つといわれている〝奇跡の物質〟ALA。「健康にいいとは聞くけれど、どんな物質なの?」と思っている人も多いのではないでしょうか。そこで今回は、ALA研究の第一人者・渡辺光博先生にインタビュー。ALAの働きやそのパワー、サプリメントのとり方についてお聞きしました。


慶應義塾大学
政策・メディア研究科教授、医学部兼担教授
渡辺 光博 先生

東北大学遺伝子実験施設博士前期課程、フランス国立ルイパスツール大学分子生物学科博士課程修了。メタボリックシンドロームの診断・治療法の研究を経て、現在はアンチエイジング、代謝疾患、栄養医学、予防医学等をテーマに幅広い研究を行っている。

―ALA(アラ)とはどういう物質ですか。

 ALAの正式名称は「5-アミノレブリン酸(5-Amino Levulinic Acid)」といって、人間はもちろん、動植物まで自然界に広く存在しているアミノ酸の一種です。以前から病気の治療薬として知られていましたが、近年、新型コロナウイルスの感染抑制効果があることが発表され、ますます注目を集めています。

―どのような分野で利用されているのですか。

 がん、糖尿病、肥満、アルツハイマー病などさまざまな医療分野で効果が報告されているほか、美肌・育毛・アンチエイジングなど美容分野でも活用されています。
 その驚くべき効果は、農業・漁業・畜産業でも認められています。たとえば植物にALAを与えると収穫量が増える、おいしい果実がとれる、牛や豚に与えると肉質が良くなる、卵や牛乳の質も良くなるといった具合です。研究が進めば、活用の幅はさらに広がっていくでしょう。

―ALAは睡眠の悩みにも効果がありますか。

 臨床研究では、睡眠の質の向上にも効果があることが分かっています。睡眠には眠りを促す「メラトニン」というホルモンが関与しています。メラトニンは、昼と夜を区別するスイッチのような役割を果たしているホルモンで、不足すると体内時計が狂い、睡眠障害の原因にもなります。ではなぜ、ALAが睡眠の質にかかわっているのかというと、ALAがメラトニンの原料となるセロトニンや、セロトニンの材料となるトリプトファンを増やす作用があるからです。セロトニンが増えればメラトニンがうまく生成され、結果的に睡眠の質が良くなると考えられています。

―人間の体内では、ALAはどのような働きをしているのですか。

 人間が生きていくために必要なエネルギーは、細胞内のミトコンドリアで生産されています。まず、その仕組みを簡単に説明します。
 私たちは毎日ご飯を食べますが、食べ物を口に入れただけで体が動くわけではありません。食事をすると、食べた物がさまざまに分解されてミトコンドリアに運ばれ、そこでエネルギー源となる「ATP(アデノシン三リン酸)」という物質が作られます。ATPは必要に応じてすぐにエネルギーとして利用できますが、体の中に貯めておくことができません。そのためミトコンドリアでは、日々消費されるATPをせっせと生産しています。その過程で活躍しているのがALA。ミトコンドリアを活性化したり、ATPの生産に必要な「ヘム」という物質を作り出したりするためにも必要不可欠な物質です。分かりやすく車にたとえてみましょう。ミトコンドリアがエネルギーを生み出す「エンジン」とすれば、ALAは車をスムーズに走らせる「エンジンオイル」のようなもの。人間の体内では、ALAが潤滑剤となってミトコンドリアを元気にし、エネルギーの生産をサポートしているというわけです。


―ALAが不足するとどうなりますか。

 ALAは体内で作られていますが、その量は加齢とともに減っていきます。生産量が最も増えるのは17歳前後で、50歳前後になるとピーク時の5分の1程度まで減少してしまいます。ALAが減少するとエネルギーの生産量が減って代謝が落ち、疲れやめまい、集中力の低下、うつ気分といった不調が起きたり、病気にかかりやすくなったりします。

―不足分を補うにはどうすればいいですか。

 ALAの含有量が多いのは、タコ、イカ、バナナ、ほうれん草、また、黒酢や赤ワイン、日本酒などの発酵食品にも多く含まれます。しかし食品から作られるALAは非常に少なく、1日分のALAを作るには、ほうれん草なら12キログラム、赤ワインなら1リットルもの分量が必要です。もちろん食事から積極的にとることも大切ですが、足りない分はサプリメントで補充する方法が効率的です。
 ただし、サプリメントには、睡眠導入剤のように飲めばすぐに眠れるといった即効性はありません。症状がつらいときは医師が処方する薬を服用し、サプリメントを併用するのも賢い方法です。ALAは不調を抱えている方だけでなく、ご自身の大切な体をメンテナンスしながら長く使っていくために、健康な方にも摂取していただきたい物質です。サプリメントは副作用がなく誰でも安心して利用できますから、効果が現れるまで気長に飲み続けるといいでしょう。

「老化」にどう立ち向かうか。この課題に、対症療法ではなく根本からアプローチしたい 研究者と教育者、二つの顔を持つ渡辺先生。大学院で教鞭をとる傍ら、「老化」という難しい研究テーマに挑んでいます。「若いころは元気でも、年をとると誰もが病気にかかりやすくなりますよね。つまり老化はあらゆる疾患のリスクファクターです。僕はこの課題に対症療法ではなく根本からアプローチしたい。ALAにはその力があると考えています」。先生がALAと出合ったのは15年ほど前。ALAの働きに多様な可能性を見出し、現在は海外の研究者とも共同研究を重ねています。私たちが健康であり続けるために欠かせない物質、ALA。熱意を持って研究に取り組む渡辺先生の姿に、内外から期待の声が高まっています。